医療のお役立ち情報をお伝えする「福るん日記」へようこそ、こんにちは、福るんです。
先日、TVで長嶋一茂さんの股関節手術(人工股関節置換術)が放映されました。意外に多くの方が視聴されており驚いたのですが、あの放映された手術と同じ手術を開業医となった現在も実際に執刀させて頂いている整形外科医の一人として、どのような手術で、入院期間はどれくらいで、費用はどれくらいで、、、などなど股関節痛に悩んでおられる方々が疑問に思っておられるであろう事柄についてお役に立てればと思い、今年最後にこの「福るん日記」を通じて発信させて頂くことにいたしました。
近年、脚光を浴びつつあるロボット手術についても、こっそり実情や裏事情を交えながら私見を述べさせて頂ければと思っております。
人工股関節置換術とは…
整形外科医の中では、THAと呼ばれることが多い手術で、Total Hip Arthroplastyの頭文字を取ってそう呼ばれています。
変形性股関節症に対して行われることが多い手術です。日本人の場合、80~90%の変形性股関節症の原因は、寛骨臼(臼蓋)形成不全が原因と言われています。
寛骨臼(臼蓋)形成不全に伴う変形性股関節症とは、股関節の屋根部分(臼蓋)が元々浅い形状をしているがために、体重のストレスが一点に集中してしまい軟骨が少しずつ擦り減ってきてしまうというものです。股関節には体重の3~4倍の負担がかかります。小生が医者になった20年以上前は、戦後の乳児検診がまだ十分に整備されていなかったこともあり、先天性股関節脱臼と言って、赤ちゃんの時に股関節が脱臼していた影響で股関節の発育不全を生じ、その結果としての寛骨臼(臼蓋)形成不全による変形性股関節症の方が大勢いらっしゃいました。近年では、検診の発達に伴い先天性股関節脱臼に伴う変形性股関節症の方は少なくなりましたが、遺伝的に元々屋根が浅い方が変形性股関節症になるケースは依然として多く、今日でも日本全国で多くのTHAが施行されているというのが現状です。先天性股関節脱臼に伴う変形性股関節症では変形具合が酷いことが多く、当時は手術も難渋する症例がたくさんありましたが、そのような難症例にも松本忠美名誉教授の最後の弟子として、数多く経験させて頂いたおかげで今の股関節外科医としての自分があると思っています。今だから言えますが、小生はこれまでに人工股関節置換術は3000件以上執刀させて頂きましたが、その多くは教授の影武者としてさせて頂きました。有り難いことに、開業してからの2年半の間にも、150件以上の手術を執刀させて頂きました。こと股関節の内視鏡手術に関しましては、技術認定医の資格を有して行っている整形外科医は北陸では私以外にはほとんどいないというのが現状だと思います。今年は、人工股関節置換術、人工股関節再置換術、鏡視下股関節唇形成術合わせて71件させて頂きました。手術でいつもお世話になっている4年ほど前に新築移転された野々市市の南ヶ丘病院、それから小松市内のやわたメディカルセンターにはこの場をお借りして心より深謝申し上げます。
それでは、人工股関節置換術についてどのような手術か簡単にご説明させて頂きたいと思います。
簡単に言うと、軟骨が擦り減って骨同士がゴリゴリと擦れ合い変形してしまった股関節を、人工の関節に置き換える手術です。材質はいくつかありますが、概ねチタン合金ででてきています。何故チタン合金か?と申しますと、理由は3つあります。
一つは「生体親和性が高い」金属と言われているからです。金属アレルギーをお持ちの方もおられると思いますが、チタン合金はそのような拒否反応が起きにくい金属と言われています。二つ目は「錆びにくい」ということです。生体内で錆びてしまっては困りますよね。3つ目は「軽くて丈夫」ということです。チタン合金は戦闘機などの材質としても使われているように、軽くて丈夫という特性があります。これも身体の中心で全身を支える股関節にとってはとても重要な要素になります。このような理由から人工股関節の材質としてチタン合金が選択されることが多いわけですが、他にもコバルトクロム合金やステンレス製の人工股関節もあります。細かい材質についてのお話は、今回は割愛させて頂きたいと思います。
耐久性について気になる方も多いと思います。近年、人工股関節の耐久性は飛躍的に向上し、一昔前であれば10~15年くらいで入れ替え手術が必要になるというようなことが言われておりました。実際、小生が医者になった24年前であればそのような説明を患者さんにしておりました。しかし、最近の人工股関節の耐久性は20年経っても90~95%の方が壊れることなくその機能も維持していることが、多くの論文によって報告されています。
つまり、もし今20人の方が、人工股関節置換術を受けたとしますと、20年経っても20人中18、19人の方は大丈夫で、入れ替え手術は必要ないということです。最新型の人工股関節の歴史がまだ浅いので、それ以上先の耐久性については今後の臨床成績報告を待たねばなりませんが、大学時代から今日に至るまでずっと定期的に術後経過をフォローさせて頂いている小生の印象では、概ね30年以上経っても80%以上の方は大丈夫であろうと推測しています。今後の人工股関節置換術の課題は耐久性ではなく、術後感染や術後脱臼という問題をいかに減らせるかということになってくると思います。術後感染や術後脱臼といった術後起こりうる合併症につきましては、「福るん日記」の別記事に譲りたいと思います。
さて、これから人工股関節置換術を受けようか悩んでいる方が気になることとして、入院期間や費用面のことがあるのではないでしょうか。
入院期間は施設基準や術者の技量、術式、患者さんのコンディション等々によっても変わってくるので一概に言えないところもございますが、小生はいつも2週間程度とご説明させて頂いております。
当院では、退院された後も自信がつくまで通院リハビリでしっかりサポートさせて頂きますのでご安心ください。また、定期的に人工関節に問題がないかきちんとフォローさせて頂きますのでご心配には及びません。
費用に関しましては、少子高齢化によって今後どうなっていくか不透明な部分はあるものの、現時点では日本という国には幸いにも高額療養費制度というものが存在するおかげで、ある一定額以上の負担は国がすべて負担してくれます。
具体的にご説明しますと、人工股関節置換術にかかる医療費は手術代や入院費など諸々で約200~250万円ほどになります。医療保険適応で自己負担額3割の方ですと約60~80万円かかる計算になります。かなり高額に感じられると思いますが、実際にこの額を支払う必要はなく、高額療養費制度の適応によって自己負担額としては10万円ほどになります。日本には高額療養費制度があるおかげでこれくらいの自己負担で済みますが、アメリカであれば高額な医療保険に自身で加入していなければ、この高額な医療費を自己負担しなければならず、そのような背景もあってか小生が10年前にアメリカに留学させて頂いた時には患者さんは2,3日で退院されていました。高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げが国会での議題にあがっているという話も耳にしますが、この制度が改悪されることで受けたい医療を受けることができずに苦しまなければいけない患者さんがでてこないことを願わずにはいられません。
最後に、人工関節手術においても最近ちらほら目にする機会が増えてきたロボット手術について私見を述べさせて頂きたいと思います。
ロボット手術は泌尿器科などでは一般的な治療として普及しており素晴らしい術式だと思いますが、こと股関節手術に関しましては、まだまだ発展途上と言わざるを得ない状況だと思います。1時間で終わる手術に4時間、5時間かかったり、ロボットがゆえに微妙な匙加減が難しく、骨盤の骨が砕けてしまい大学病院に救急搬送される事態に陥ったり(これは他県で起きた話を業者の方からコソっと教えてもらったお話です)、本来であればロボットを使うことで、より精度高く人工関節を設置できるはずが、経験豊富な術者がロボット無しで手術した方がよっぽど精度が高かったり、、、というような、患者さんが決して知り得ない負の一面が存在することも事実です。新しい技術がいつだって優れていて正解であるとは限りません。
人間の性として、どうしても真新しいものに惹かれてしまう患者さんが多いではないかと思いますが、一生に一度の大手術を受けるのは術者でもなく家族でもなく患者さんご自身です。大手術と言いましたが、この手術(人工股関節置換術)は約1時間で終わりますし、傷も10cmくらいで済みますのでご安心ください。それでも、手術を受けるときは真新しいものにすぐ飛びつくのではなく、可能であれば実際にその手術を受けた患者さんから直接お話を聴いてみる、それができなければ今はインターネットで簡単に調べることができる時代ですので色々とお調べになって、ある程度の情報を得た上で、この先生なら安心して手術を任せられると直感的に感じた施設で手術を受けられるのがいいのではないかと個人的には思っています。何事も最後はフィーリングや直感って何かを決断をするときにとっても大切かなって思っています。
長くなりましたが、今年も71名もの患者さまが愚生のことを信頼し手術を受けてくださったことに心から感謝申し上げます。
来年もこれまで培った経験を余すことなく活かして、股関節痛に苦しんでおられる患者さまのお力になれればという熱い想いを胸に、今年最後の「福るん日記」を締め括らせて頂きたいと思います。
今年も一年、大変お世話になり誠にありがとうございました。
今後とも「こまつ整形外科クリニック」をどうぞよろしくお願い申し上げます。
スタッフ一同、来たる巳年も笑顔いっぱい全力で地域医療にコミットしてまいりたいと存じます。