EXETER訪問記 – Eric Bransden Esq. との旅 – (後編)

福るん日記

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こんにちは、福るんです。

 

遅くなりましたが、「EXETER訪問記 後編」をお届けしたいと思います。

前編ではEricさんが全く出てこず、アレ?Ericさんは?って思われたかもしれません。

申し訳ありません。ここからがEricさんとの一期一会、ちょっと切ない旅の記録になります。

それでは暫し、お付き合いください。

 

Ericさんとの旅

 

さて、ここからは私にとってこの旅のもう一つの大きな目的であったアメリカ文化との違いに触れるという視点から、3週間の滞在中に私が感じたイギリス文化について報告させて頂ければと思います。

 

私は5年半くらい前の2013年12月から2014年11月までの1年間、アメリカ、コロラド州VailにあるThe Steadman Philippon Research Instituteという施設に股関節鏡手術を学ぶため留学させて頂きました。今回このイギリス滞在で是非アメリカ文化との違いを肌で感じたいという思いを抱きエクセターに赴いたわけでありますが、まず初めに感じたことはアメリカよりも保守的といいますが、あまり社交的でないというものでした。アメリカでは、例えばちょっとgrocery storeに買い物に行ったときなどでもレジで必ず店員さんは「Hello, how’s it going?」「Hi, how are you?」みたいなことを言ってきます。「I’m pretty good, thanks and you?」「Yeah, good」といった会話が続きそこから本題に入るといった具合で、これはどこへ行っても初対面で全く面識なく今後も会うことがないようなシチュエーションでも必ずと言っていいほど繰り広げられる会話です。アメリカにいた時はそうしたものを何ともいえない偽善的なものに感じることもあり正直ちょっと面倒くさいなと思うこともありましたが、イギリスではこういった会話は基本的にありませんでした。でも不思議なもので無かったら無かったで、少し寂しい気持ちに襲われアメリカの方がfriendlyで良かったな、なんて思ってしまう身勝手な自分がそこにいることにふと気付かされる瞬間が何度かありました。

 

風景はアメリカとは全く異なり、イギリスは街並みも歴史を感じさせるレンガ造りの建物が多く軒を連ねヨーロッパらしい雰囲気を醸し出しておりました。特に田園地帯はアメリカと違い全体が非常によく整備されており、田園地帯一帯が美しい庭のような印象でした。Ericさんが言っていましたが、実際あるアメリカ人がイギリスの田畑風景を見て「Oh, the field itself is like a garden!」と言ったそうです。因みにイギリス旅行で忘れてはいけないものに皆さんもよくご存知のお天気事情がありますが、イギリスの天候は日内変動が激しく、エリックさんに「The weather is so changeable!」と言うと、「Yes it is. It is said that England has four seasons in a day!」と教えてくれました。

Ericさんって誰?って思われたことでしょう。Ericさんの紹介をしなければなりません。実はエクセター訪問が決まった際にCHEFの会長である岐阜市民病院の大塚博巳先生からEric Bransdenさんをご紹介頂きました。大塚先生は過去にこのElizabeth Orthopaedic Centreに御留学されており、その時にお知り合いになられた親日家の英国人紳士Ericさんを良ければ会ってみてとご紹介頂いた訳であります。Ericさんは15歳の頃から何故か日本文化に興味を持ったという一風変わった方で、若かりし頃にはBritish Englishの教師として東京に11年くらい住んでおられたそうです。と言いますのもEricさんは幼少期に第二次世界大戦を経験されており日本は言わば敵対国であったわけでありますが、にもかかわらず日本文化に心惹かれたという一風変わった方なのであります。

実際私がアメリカ留学していた時に元々英国人であったJohn Feagin先生という膝関節外科がご専門の先生がおられ、その先生も若かりし頃にイギリスで第二次世界大戦を経験し、その当時は日本が憎かったとはっきり仰っていました。おそらく第二次世界大戦を経験された多くのイギリス人紳士は少なからずこのような感情を抱いていたのではないでしょうか。ちなみにFeagin先生の名誉のために言っておきますが、私がアメリカにいた時、Vailでは唯一の日本人である私によくお気遣い頂き、帰国の折には「Do the right thing, At the right time, For the right reason」という今の私の座右の銘となった暖かいメッセージをくださった素晴らしい紳士です。

 

Ericさんは日本在住時に結婚されたそうなのですが、奥さんは日本人かと思いきや当時住んでいたアパートに同じく住んでいたドイツ人女性とご結婚されたそうで、本当は日本語ペラペラになりたかったそうですが、仕事が英語教師ということで普段使う言語はほとんどが英語である上に奥さんとも英語での会話だったために11年近く日本にいたものの日本語はほとんど上達しなかったとぼやいておられました。そんなEricさんですが初日からエクセター空港まで日本語で「福井先生」と書かれたダンボールの切れ端を片手に出迎えてくださりEricさんとの旅が始まったわけであります。Ericさんは現在79歳で年金生活を送っておられますが、実は奥様とは離婚され子供もおられなかったことから現在はお一人でエクセターの中にあるTopshamというところに住まれています。

 

Topshamは全英の最も住みたい場所ランキングで見事一位に選出されるほど素敵なところで、Ericさんのお家にもお招き頂きましたがそれは長閑でここだけ時の流れが違うのではないかと錯覚するほど穏やかな時間が流れている町でした。Ericさんは都市伝説的な話が大好きで、ダイアナ妃は事故死ではなく暗殺されたというお話やミステリーサークルのお話、世界はイスラム教に支配されつつある(ロンドンの現市長はイスラム教でありイスラム教徒の移民受け入れ万歳でイギリスにイスラム教徒が増加している)?等々たくさんのお話をEricさんのお家で一緒にYouTubeを見ながら聞かせて頂きました。

ちなみに外科医がMr.で一般(内科)医がDr.の理由を聞いたところ、イギリスでは専門性の高い外科医は一般(内科)医よりも位が高いとみなされているからだそうです。ちなみに手術室はご存知の方も多いかと思いますが、アメリカのようにOR(Operation Room)ではなくTheatreでした。アメリカ英語とイギリス英語の違いは他にも幾つか気が付きました。例えばアメリカ人は「いいね」、Sounds goodの表現としてGreatやWonderful、Sweet、Awesomeなど色々あると思いますが、イギリス人は一貫してLovely、Lovely、LovelyでこのLovelyは本当によくは耳にしました。他にはfast food店などで、「ここで食事していかれますか、それともお持ち帰りですか」という表現は決まり文句でアメリカだとFor here or To goだと思うのですが、イギリスではTo goではなくTake awayが使われていました。他にもExitはWay out、gasolineはpetrolだったりThanksの他に同じようなニュアンスでCheersも使ったりと細かな違いを感じ取ることができました。もっと言うと話し方もアメリカ英語とイントネーションが結構違っていて、アメリカ英語に慣れていると異なる言語とまでは言いませんが慣れるまでかなり聞き取りにくい印象を受けました。

 

Ericさんには週末や空いた時間にエクセター周辺にある多くの見所スポットに連れて行って頂きました。エクセター大聖堂、幽霊が出るなんて噂もあるPowderham castle、大富豪の優雅な庭園Knightshayes、古代エクセターの地下水路であるExeter’s underground passages等々かなり濃密な時間をご一緒させて頂き、行くところ行くところで色んなお話を聞かせて頂きました。79歳のEricさん、所々ぎこちないところはあるものの元気にマニュアル車を運転される姿を見て、日本のご老人もEricさんみたいにマニュアル車を運転できる方だけが運転してよいことにすれば近年多発する高齢者ドライバーによる事故も減るかもなんて思いながら、高齢者の事故の他にも8050問題など現代日本の抱える高齢化社会の話題で盛り上がったりもしました。

 

Time flies! 3週間もあっという間に過ぎてしまい、いよいよ最終日を迎えることとなりました。Ericさんは鉄道マニアでとりわけ蒸気機関車が大好きな方で、最終日にはTorquayにある蒸気機関車に乗ってPaingtonからDartmouthというところまで最後の旅をしました。Ericさんとの別れの時が刻一刻と迫る中、汽車の車窓にはあの名探偵ポアロで有名な作家アガサクリスティーの邸宅が映っていました。その時何の気なくEricさんにご兄弟について尋ねてみたのです。するとEricさんからご両親はもちろん他界されておりご兄弟もおられないと告げられ、最後に囁くように、「I am the last Bransden…」と小さく作り笑いをしながら言われたのです。どうしてこんなこと聞いてしまったのだろうと自責の念にかられると同時にEricさんとの別れを惜しむって言ったって自分には待ってくれている家族がいる、でもEricさんには誰もいないじゃないかって思うとどうにも遣る瀬無い気持ちで胸が締め付けられるようでした。Ericさんには身寄りはもう誰一人としていないのです。近所付き合いもほとんどないと言います。毎日毎日来る日も来る日も一人で孤独と戦いながら生活されているのです。そんなEricさんの一人単調な日々を想像するに孤独感で押し潰されそうになる中、時間は残酷に過ぎていきとうとう本当にお別れの時が来てしまいました。

空港まで送ってくださったEricさんにありったけの感謝の気持ちを伝え、大きく握手を交わしEricさんの運転するルノーを後にしました。Ericさんが見えなくなるまで見送りとうとう見えなくなる頃には目頭が熱くなり気がつけば涙が頬を伝っていました。79歳の英国人紳士が運転する小さなルノー車に揺られ異国の地を旅するなんて後にも先にも二度とない素敵な出会いと時間をありがとう、Ericさん。Ericさんのことは一生忘れないですよ、またいつの日か金沢でお会いしましょう。

 

エクセター大聖堂で石碑に書かれた文字を見て「Do you know the “Esq.”?」と聞かれ、「No, I don’t」と答えると、「Esquireのことで現代ではあまり使われなくなったけどMr.やMrs.よりももっと敬意を表した表現で、様や殿といった意味だよ」と教えて頂きました。お世話になったEricさんに敬意を表して本稿のサブタイトルは” Eric Bransden Esq.との旅”とさせて頂きました。

 

 

以上、Ericさんとの出会い、軌跡をお届けいたしました。

自分でも、もう一回読み直してみて、写真を見返してみて、、、Ericさんに無性に会いたくなりました。

 

Ericさん、ずっとずっと100歳目指してお元気で

Keep in touch!!  Bye for now!

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